低金利で政府がすべきこと
露国のウラジーミル・プーチン大統領より「自転車でひっくりコケた」米民主党のジョー・バイデン大統領の体力と寿命のほうを心配したほうがいいと思うのは、私だけでしょうか。
米国の連邦準備制度理事会(FRB)が「三倍速」ともいわれる利上げに踏み切れるのは、少なくともこの二十年間、米国民の給与水準が上昇し続けてきたからであり、わが国のように三十年間にわたって給与下落してきたのとは事情が全く違います。
それでも利上げすることで、景気後退が物価上昇を抑制できないまま訪れる懸念を払拭できません。米国でさえそうなのです。
日本銀行の黒田東彦総裁が先般、長期金利の引き上げを否定したことは、読者ご指摘の通り唯一賢明な判断と申せましょう。欧米の利上げに引きずられてわが国が「やっていける」状態にはないからです。
報道権力やマクロ経済学とミクロ経済学を「ごちゃ混ぜ」にして語るような自称・経済学者たちが日銀のこうした判断を批判し、利上げによる円安抑制を訴えていますが、利上げが景気抑制を招くことを知らないのでしょうか。
まさかそのようなはずはないのですが、或る種の大衆迎合(ポピュリズム)的発言なのでしょう。目先の現象として円安による輸入品の価格上昇に、私も含めて多くの国民が苦しみ始めているからです。
しかし、既に給与下落のまま物価上昇(スタグフレーション)を招いて何もしない岸田文雄首相が仮に日銀へ利上げの要請をすれば、たちまちスタグフレーションがさらに進行することになります。
目下私たちが「円安をどうにかしろ」「日銀は利上げしろ」などといってしまうことは、自分で自分の首をさらに締め上げることにしかなりません。極端な喩えですが、いわゆる「バブル崩壊」をハードランディングさせてしまった旧大蔵省の総量規制を「今すぐやれ」といっているようなものなのです。またも私たち国民から大量に死人が出ます。
財務省は、貿易収支が二兆円超の赤字であり、これが十か月も続いている(五月の貿易統計・速報値)と発表しました。また、私が最初から批判し続けてきた「クール・ジャパン機構」の累積赤字が三百億円を超え、統廃合の提案がなされました。
ならばどうすればよいでしょうか。
政策提言としては、まず利上げできない最大の理由を解決しなければなりません。景気(内需)回復が至上命題である以上、目下の輸入価格上昇でも商品価格の値上げが苦しい(つまり、物価上昇でも給与を上げられない)なら、消費税を廃止するしかないのです。
そして、製造国であるわが国が本来歓迎すべき円安に苦しんでいる最大の理由も解決しなければなりません。いわゆる「中共リスク」が身に沁みたはずの現在、できるだけ国内調達・国内製造へ回帰することが求められるはずです。
少なくとも、危機的事態に遭遇して「嘆く」より「解決策を見出す」ことで艱難辛苦を乗り越えた先人たちが築いたはずのわが国企業が目下ただただ嘆いているだけなのは、岸田政権が何の「音頭」もとらないせいでもあります。
政府が国内回帰の成長戦略を提示することで、国家安全保障上の諸問題にも貢献するのです。海外に依存することの致命的弊害は、ウクライナ情勢をめぐる対露制裁で足並みがそろわない欧州の例を見ても明らかでしょう。
国債が大量購入されたのは、いわば日銀が利上げを否定したことで景気後退リスクを回避したからであり、政府がこのまま何もしないのでは、日銀ばかりが踏ん張って「政府はニートで引きこもり」しているようなものです。
日銀に量的金融緩和を先にしてもらい、政府の財政出動も成長戦略も後塵に期したことで大失敗した例の「アベノミクス」と同じではありませんか。安倍政権を支持してきた方がたも、いい加減にこれだけは認めてほしいものです。
参議院議員選挙を前に、こうした議論が白熱しないわが国で、果たして本当に国民経済は救われるでしょうか。餓死寸前になれば、もっと必死になるはずなのですが……。