サマーウォーズが描く日本
日本テレビの『金曜ロードショー』は6日、平成21年製作・公開のアニメーション映画『サマーウォーズ』(細田守監督)を放送しました。本作の時間設定がちょうど本年8月1日なので、テレビ初放送を急いだのでしょう。
製作当時は、まだ小惑星探査機『はやぶさ』が満身創痍でも無事故郷に帰って来れるかどうか分からなかったため、本作に登場する『はやぶさ』をモデルにした『あらわし』が、全世界に普及しているインターネットシステム『OZ』を大混乱に陥れたハッキングAI(人工知能)の『ラブマシーン』に乗っ取られ、長野県上田市に墜ちてしまいます。
この上田市が本作の舞台であり、山間にある立派な旧家が陣内(じんのうち)家です。面白いのは、その見せ方が横溝正史原作の『八つ墓村』(野村芳太郎監督)に登場する多治見家(原作では田治見家)とほぼ同じであり、主人公の健二(声=神木隆之介)が圧倒される様子を見事な構図で描いています。
本作の主題が「家族の絆」であることは公開当時からうたわれており、そのような主題とインターネット上の仮想現実との闘いが繋がる面白さは、新しい表現として高い評価を受け、数多くの映画賞を総嘗めにしました。
家族との繋がりが希薄な現代っ子の健二が圧倒されるのは、陣内家16代目当主の栄(声=富司純子)によるいわゆる君主制のもと、20人以上もの家族が結束し、同じ食卓を囲んで諸事に当たっていく様そのものであり、口うるさい警察官の翔太(声=清水優)でさえ栄ばあちゃんの言うことには逆らいません。
そこに、ハッキングAIを開発して米国防総省に売り渡した侘助(声=斎藤歩)が現れますが、彼は先代当主(栄の夫)の妾の子でありながら、栄が彼を受け入れ、実はかわいがってきたのです。それは、彼も父系を辿れば立派な陣内家の人間だと栄こそが知っていたからでしょう。だからこそ、時には彼に厳しくもありました。
OZを通して通信・会話・各種手続きをしてきた人々が大混乱に陥るのをよそに、元教師の栄が電話一本で教え子の政治家や大物官僚たちを動かし、事態の収拾を命じて励ます場面は、人と人とのつながりの大切さ、温かさを表して見事です。健二は、栄に励まされて人が動くことにも圧倒されます。
さあ、皆様、ここまで本作をご覧になって何かお気づきではありませんか? 当主の存在がご皇室を連想させる、と。これが「こじつけ」かどうか、少し検証してみましょう。
地上デジタル放送では、シーンガイドという各場面解説を文字情報として見ることができるよう試みられましたが、細田監督がどのような意図で本作を作り上げたかがよく分かるようになっていました。
栄の周りには、頻繁に朝顔の花が映し出されます。そこに込められた意味は、枯れてもまた咲く「生命の継承」であるということが明記されていました。ですから最後の場面で、亡くなった栄の祭壇にたくさんの朝顔が飾られ、その前で健二と夏希(声=桜庭ななみ)の結婚を想起させるのは、まさに「生命の継承」という保守主義の基本哲学がもう一つの主題だったことを分からせます。
私はここで何度も書いてきましたが、それこそが祖先祭祀であり、祭祀を司られるのが天皇陛下です。「保守主義」なんぞと書いてはいますが、もはや政治思想ですらないのかもしれません。私は、万人にとって当たり前のことを日々訴えているだけの、つまらぬ人間なのかもしれぬのです。
極端に申せば、この保守を否定するならば、今すぐ死なねばなりません。わが子がおれば、子殺しをやって「生命の継承」を断ち、自らも死ぬしかないのです。それを承知の上で祭祀とご皇室を否定するのか、と。
恐らく、細田監督にここまで主張する意図はなかったと思います。それは、4月25日記事で取り上げた植村花菜さんの大ヒット曲『トイレの神様』や、7月27日記事に書いた東宝の富山省吾ブロデューサーが語ったゴジラという存在の価値観を通しても、たぶんそうでしょう。
はっきりそうと分かっていなくても、保守主義の基本哲学によらねば人類は滅亡し、地球は崩壊するかもしれないのであり、その感覚が本能として皆に備わっていることを如実に表しているのです。自らを「共産主義者」「革命的マルクス主義者」と認めている方にさえも……。
美しい日本の原風景を通して、個人としてしか尊重されない占領憲法下の日本から、家族はおろか「億兆心を一に」していた日本を復原すべきだと、本作はそこはかとなく教えてくれます。陣内家の人々がインフラ(社会基盤)関連の仕事に就いていることもそうですが、混乱の大元締めが米国防総省というのは、何をか言わんや。