ザ・コーヴ?愚直な評論

皇紀2670年(平成22年)7月7日

 平成7年製作・8年日本公開の米国映画に『ベイブ』(豪州のクリス・ヌーナン監督作品)という大ヒット作があったことを、皆様はご記憶でしょうか。優秀な牧羊犬を飼育している或る農場にもらわれた子豚のベイブが、なんと牧羊犬ならぬ牧羊豚になって大活躍するという作品です。

 先日ご紹介した『トータル・フィアーズ』では米国大統領に扮しているジェームズ・クロムウェルが、実に朴訥とした牧場主を演じて見事でした。彼自身、熱心な動物愛護運動家で、かつて米ハンバーガーチェーン「ウェンディーズ」に対する抗議行動によって逮捕された経歴さえあるほどです。

 私の周囲には、本作を鑑賞したのちに豚肉が食べられなくなったという人がおり、改めて映画の持つ力を感じましたが、このような娯楽作品でさえ一種のプロパガンダとなりうる(かつての戦意高揚映画は娯楽作品の形態をとった)ことから、ドキュメンタリーと称する「製作者の主観による映画」の持つ力は計り知れないものがありましょう。

 その典型例がマイケル・ムーア監督による「自称」ドキュメンタリー映画たちです。その趣向はルイ・シホヨス監督の『ザ・コーヴ』へと受け継がれており、近年のプロパガンダ映画の作り方そのものではないか、と私は疑っています。

 勝手な撮影を敢行された側の和歌山県東牟婁郡太地町の方々は、ほぼ口を揃えて「映画の製作過程に悪意を感じる」と指摘していますが、出演者である活動家のリック・オバリー氏を招いた和歌山大学では、その上映・講演会終了後、イルカ漁に反対する学生が4倍にも増えたそうです。

 http://www.wbs.co.jp/news.html?p=15395

 ▲WBS和歌山放送ニュース:和大生「ザ・コーヴ」見た後、イルカ漁反対が4倍に

 これをもって、和歌山大学の学生たちを莫迦にしてはいけません。前述のように、よくできたドキュメンタリー映画を装ったプロパガンダ映画を見て、影響されない信念をもともと持っている人などそうはいないでしょう。彼らの反応こそが、すべてを物語っています。

 仮にも私が、例えば靖國神社に関する「自称」ドキュメンタリー映画を製作すれば、必ず反日本派のお歴々から「悪質な戦意高揚映画だ」と批判されるでしょう。ですから、私は『日本書記』編纂の精神に習い、様々な見解を並列的に描こうと思います。これが本当のドキュメンタリー映画ではないでしょうか。

 さらにもう一つ、映画評論家の一宮千桃さんによる感想文を拝読する限り、反イルカ漁と「業」を語る宗教的側面の一致さえ見て取れます。愚直なまでに視覚に訴えられたものを肯定しようと必死です。

 http://www.fe-mail.co.jp/trend/entertainmentflash/20100702.cfm

 ▲Fe-MAIL:一宮千桃のエンターテインメントフラッシュ

 自らも懸命に反イルカ漁に染まろうと、牛肉を食べることとの違いがないと指摘した他の鑑賞者を批判していますが、「論点がずれてない?」と書いて本人が最も論点をずらしています。「イルカは人間より賢くて不思議な力を持つ生き物」という記述も、生と食の関係に於いて重要な漁の主題から懸命に論点をずらしているのです。

 製作者もそのようなことをしているのでしょうが、鑑賞した者にまで同じ作業をさせる力を本作は持っており、上映中止騒動がかえって宣伝になる心外はさておき、もはやドキュメンタリーについて「事実をありのまま描く」という意味に捉えること自体を私たちがやめるべきではないでしょうか。

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『ザ・コーヴ?愚直な評論』に3件のコメント

  1. ストリートマン:

    牛・豚の殺す現場を「盗撮」されて一言の挨拶も無く世界に放映されたら外国の業者は怒るでしょう。文化がどうだと言う前に人間には生活が大事だと気がついて欲しいものです。

  2. 人形焼:

    一宮千桃さんのプログを読みました。人のことは言えないが、随分そこの浅い人です。四足を食べる事をやめても、鳥は食べるだろうしニワトリは狭いケージで卵を生まされ後は肉になる。魚だって、植物だって生きているのに食べられる。イルカだって魚を食べる。食べなくても靴やベルトは革製品は動物を殺さなければ手に入らない。人や生き物が生きると言う事は客観的に見て残酷な部分があることがわかって居ないっていない。優秀な生物は殺すな、となると下等な生物は殺していいことになり、昔、ナチスが(本当はナチスだけでないが)障害者を処分したのと同じになる。あと、イルカはクジラだろう。

  3. 同姓:

    >人間も動植物も底の底ではすべて繋がっている。イルカたちにしていることは全て自分たちにしていることと同じなのだ。そういうことが全然この漁師たちは分かっていないんだなあ…呆然としながらそんなことが頭をよぎった。一宮千桃 じゃあ、あんた何を食べるのと言いたいですね。イルカにしている仕打ちを漁師たちは分かっていないって、漁師町に魚達の慰霊碑があるのを知らないのでしょうか。