国民経済の絶望と殺人事件

皇紀2679年(令和元年)6月3日

 元農林水産事務次官の熊澤英昭容疑者(東京都練馬区早宮)が無職の息子を自宅で刺殺したことは、霞が関官僚たちを少なからず動揺させたようです。昨日も半日がかりで某省庁職員と政策研究をしていたのですが、後半はほぼ神奈川県川崎市で起こされた無差別殺傷事件とこの事件の関連話になり、わが国に潜むあらゆる問題を引っ張り出して解決策を論じあいました。

 その議論は、文字通り数時間にも及ぶ分量のもので、とてもここで一気に申し上げられません。それほど現下のわが国に横たわる問題が大きすぎるのです。こう申しては恐縮ですが、私自身昨日の議論で疲れ切ってしまったほど皆さんが思っておられる以上に酷いことがはっきりしたのです。

 一つだけ申しますと、特に政府が平成五年から十六年と明示したいわゆる「就職氷河期」世代を中心に味わった、当時わが国に起きたとてつもない不景気(内需委縮)をめぐり、その時打った手打たなかった手が共にもたらした現在の惨状とこれらの事件との浅からぬ因果関係について、ということになります。

 川崎市で小学六年生の女児と外務省職員を殺害した五十一歳の岩崎隆一容疑者も、まるで彼のようになることを未然に防がられるがごとく親に殺された四十四歳の熊澤英一郎さんも、まさにこの期間に青年期から壮年期を迎えた世代であり、かくいう私も俗に「団塊ジュニア世代」ですから、思いっきりここに当てはまるわけで、当時の絶望感を忘れもしません。

 そうは申しても、私は幸運でした。略歴通り卒業と同時に大学へ、退職後もすぐに進学塾の会社に採用されましたから、ともすれば「よくいうよ」といわれるかもしれませんが、地獄のような受験戦争を経て、きちんと大学を出てしっかり就職をすることがよい人生という絶対的価値観のもとでえんえんと育ち、必死の思いで飛び込んだ大学を卒業するころには就職がなかったのですから、私とて大学学科長からお声をかけていただくまでは「ああ日本は、俺たちはとんでもないことになった」と思いました。

 現行憲法(占領憲法)を放置した政治がプラザ合意に及び、総量規制で内需をほぼ抹殺した結果、当然私たちの暮らしが急に破綻したのです。消費税の導入とのちの税率引き上げも含め、これら全ては大蔵省(現財務省)の仕掛けた「日本経済破壊工作(前代未聞の売国行政)」だったと申して過言ではありません。

 さて、そこでこの二つの事件は、共にわが国の絶対的価値観から外れた人びとに関係し、外れざるをえなかった世代に対して既得権を有していたその親の世代が打った手(自宅に囲い込む)と打たなかった手(価値観からの解放をしなかったこと)が相乗効果をもたらして最悪且つ極端な結果を生みました。ですから、報道されているような「行政に相談しやすいように」だの何だのという対策は、息子を恥として自宅に囲い続けた熊澤容疑者の例を見てもほぼ不可能なのです。

 そして、こうはならずとも世にいう「8050問題産經新聞社記事参照)」は、失われた平成の三十年間といういわば悪魔が産み落としたわが国の「家族の崩壊」そのものであり、国家経済の崩落によってわが民族の将来が致命的な先細りを始めました。それでも財務省は(財務省のものでは決してない)莫大な政府資産を抱えて国民に一切還元せず、厚生労働省も出鱈目な年金制度を変えようとしません。それは、現既得権の世代が怖がって手放さないからです。そのことがかえって自分たちの首を絞めるというのに。

 私は、日本という国を愛してやみません。さだめし多くの日本人は、もうこれ以上わが国の悪口雑言を聞きたくも自ら並べたくもないでしょう。しかし、本当に日本を愛する者にしか、わが国の問題をつまびらかにして解決することはできないのです。はなから売国的な政治家や官僚、活動家はもちろんのこと、既得権の世代にいる保守派の論客たちでもこの問題を取り上げて体制と戦うことなどできません。

 これまで述べてきた各論の経済論と併せ、今一度整理して政策提言します。失われた三十年の怨念を、この世代の血の出る心の叫びを、どの政治家も全く代弁してくれないのであれば、私は声を上げます。本日はここで失礼させてください。

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『国民経済の絶望と殺人事件』に5件のコメント

  1. きよしこ:

    俗にいう「引き篭もり」や「ニート」が凶悪事件を起こすと「こうなる前に誰かに相談すべきだった」という無責任な言動が目立ちますが、相談される側にも人生や生活があるわけで、当然ながら彼らにも安定した収入が必要になってきます。少し考えれば分かるはずなのですが、報道権力は財務省に人質でも取られているのか深刻な物価および給与の下落に言及するわけでもなく本人や家族に責任の全てを押し付け当事者の孤立に拍車を掛けています。どうやら今回実父に殺害された息子は44歳というそれなりの年齢でありながら親から毎月数十万円とも言われる「小遣い」を支給され、それをネットゲーム『ドラゴンクエスト10』の課金アイテムに注ぎ込んでいたらしく、「殺されて当然」とは言わないまでもツイッターでの傲慢な発言を見ても、ある程度の「制裁」は必要だったのだろうと思います。

    かくいう私自身も、よく働いてよく稼ぐ団塊世代の父親の庇護のもとで、大学を中退しながらもなんとか周囲の人に恵まれ安定した(但し給料の低さは極めて深刻)職に就けて衣食住には困らないという熊沢家に比較的近い境遇にあるが故に、今回の事件を他人事とは思えず「こんな結末を迎えるために父親は必死で国に尽くしてきたわけでもあるまい」「息子も何とか命だけは助かってもらいたかった」という思いが幾度となく去来しています。また、実母とはちょうど30歳違いなので「8050問題」も十数年後には嫌でも直面するわけで、一向に上がらぬ所得と居住している地域の急速な人口減少に起因する深刻な衰退も相まって将来には不安しかありません。どうせ生涯独身だし、親の最期を看取った次の日に死んでも構わないという価値観はこの先も変わることはないでしょう。

    それでも幸運なことに遠藤先生をはじめ、インターネットを通じて知り合った方々から御教授を賜ったり励まし合ったり時には慰めてもらったりしながら生活できているわけで、何とか少しでも良い未来を実現し後世に伝えていくために体の続く限り頑張りたいです。特に近頃「結局は貴方も既得権益側か」と溜息をつきたくなるような言動を繰り返す「保守派言論人」も散見されます。深い絶望に苛まれているのは何も団塊ジュニアだけではありません。はっきり申し上げて既得権益者を除く全ての国民が後悔と絶望と不安の淵に立たされているのです。どうせ最後は死ぬ運命なのですから、せめて今際の際に「自分は日本のためによく頑張った」と胸を張って言えるような人生を送りたいです。ツイッターのアカウントは凍結されてしまった(未だに納得いかない)けど、様々な手段を駆使してこれからも正論を訴え続けます。

  2. 心配性@我は蛮夷なり:

    人口が多く「少子高齢化の歯止め」と期待された世代が、「就職難」や「経済的困窮」から、お子さんを持つことを諦めたり、一人っ子で我慢するような状態が長く続いた為に、「未曽有の少子化」につながってしまったのではないかと思います。

    キリキリと財政を切り詰める一方で、様々な規制緩和が行われ、街の風景も大きく変わったように思います。
    美味しい麺料理で有名な老舗大衆食堂が閉店したのですが、ご家族が大手ファミレスなどで働いているのを見ると複雑な気持ちになります。
    「才覚」がものを言う世界ですので同情ばかりもできませんが、平成時代は、異常なまでに「改革」が持て囃された時代だったと思います。

    日本人の「改革好き」は、皇室に対しても「実績」や「レガシー」を求めます。
    どこかのメディアは、両陛下に対して「皇室大改革」を期待していましたが、総理大臣でもないのに大変なプレッシャーだろうとご同情申し上げます。

  3. やす:

    経済問題で自殺を含めてどれだけの人を殺したか計り知れませんよね
    東京大空襲や原爆投下で亡くなられた数十万規模の人は98年以降の今日に至るデフレで間違いなく殺していますよね
    金が人を殺すなんてどこかの時代劇のようなことが現実に起きているのは本当に恐ろしいことです
    ただこうした経済問題は明治以降西洋の金融システムを取り入れた時点で宿命づけられているようなものだと私は考えてまして、というのもこの金融システムは政府主導では機能しておらず、それをコントロールしているのは金融資本家達であり、我が国も明治以降その支配下に置かれた時点で今日に至るまでの多くの悲劇の種はばら撒かれていました
    ですから財務省は大蔵省の時から金融資本家達の意向で動いており、政府とは独立した機関として裏から政府を牛耳ってきたというのがネットの普及でどんどん分かってきましたよね
    今日銀の株は政府が55%持っているようですが、経済を根本から良くするには日銀を100%政府主導の国営企業にして全ての通貨発行権を持つことではないでしょうか
    そうすれば積極財政は容易になりますし、それさえできれば経済はよくなります
    実は経済学を学ぶ必要なんてなく、国内にお金を回せば経済が良くなり回さなければ悪くなるという、それだけのことであることもネットの普及で分かってきました
    あくまで私なりの解釈でちょっと間違った部分は有るかもしれませんが、この核心部分に切り込んで本来あるべき姿を取り戻さないと経済はよくならないと私は思いますし、これからも悲劇を生み、私達は紙切れにずっと怯えて、犯罪を誘発することしか生まれないと思います
    紙幣なんて所詮紙切れで、それに価値があると私達は思いこまされているにすぎず、お金がないなら縄文時代のように自給自足で暮らせばいいじゃないか
    お金より食べる方が大事だよね
    学歴を得るために必死に勉強するのは大半がより多くのお金を得るために少しでも良い会社に入るためで、そのために左翼教育に嵌りこんで自らの手で国体を知らずに破壊していく
    それが回りまわって自分自身に降りかかり8050問題なんてのが起きる
    もう紙切れに振り回されるのはやめよう
    という乱暴な言い方になりますが、そういう開き直るぐらいの気持ちがあれば自殺や犯罪も減ると思ってまして、ここで何度も言っている教育からやり直すことが、間違った金融システムを正す大きなキッカケになるだろうと考えています
    どう考えたって今の世の中は狂っています
    それを正すのは正しい教育しかないと思います

  4. 一般ピープル:

    今回の記事の的の捉え方は諸葛孔明的な識見・洞察の深さで感嘆の至りです。

    私も50で、大学卒業後、経済の凋落が致命的になる前に滑り込んだ幸運な世代の最後です。

    あともう数年生まれるのが遅かったら、勤め人としての人生は大きく変わっていたに違いありません。

    特に
    「財務省は(財務省のものでは決してない)莫大な政府資産を抱えて国民に一切還元せず、」
    という指摘は本当に事実で、誠にやるせません。

  5. 鼠宰相:

    プラザ合意からの総量規制という売国行為から、国民が絶望に追い込まれたというのは、鋭い考察と認識いたしますので、ご提示いただきありがとうございます。このような売国行為がいつ始まったかと考えると、林千勝先生の言うように、近衛文麿からだと考えます。尾崎秀実、山本五十六、永野修身、米内光政など、売国者が政府中枢に入り込んでいたわけで、今もその延長線上にいるということだと考えます。積極財政が、日本のために正しいと分かっていても、永野修身や山本五十六が作戦を崩壊させたように、正しい策をとらせない勢力が日本の中枢に入り込んでいるために、正しい策は壊滅させられているものと、強く推定いたします。だから何だと言われると、無策ではあります。