『はだしのゲン』…逝く

皇紀2672年(平成24年)12月26日

 http://sankei.jp.msn.com/entertainments/news/121225/……
 ▲産経新聞:漫画「はだしのゲン」の作者、中沢啓治さん死去 広島で被曝

 漫画『はだしのゲン』で世界的に知られる漫画家の中沢啓治氏が十九日、広島市内の病院で亡くなられていたことが分かりました。衷心よりお悔やみを申し上げます。

 いわゆる「保守派」の間では非常に嫌われてきた方ですが、私は或る時から氏のことも氏の作品に対しても彼らとまったく違う見方をしてきました。以前に少し取り上げています。それでもいつかきちんと書こうと思っていましたが、とうとう中沢氏のほうが先に亡くなられてしまい、何だか勝手ながら申し訳のない気分です。

 皆様等しくおっしゃるとおり、私と『はだしのゲン』の出会いは小学校の図書室でした。一通りの偉人伝を読み終えた私は、漫画の希少性も助けて全校児童とこれを読み争い、とうとう夏季休暇中登校日の「平和学習の日」にアニメーション映画化された作品を体育館で観たのです。これらを仕掛けたのは恐らく日教組(現在和歌山県内では日本共産党系の全教のほうが多い)だったでしょう。

 多くの女子児童は悲鳴を挙げ、中には気分を悪くして保健室に運ばれる同級生もおり、私も漫画と映画の相乗効果で原子爆弾に対する恐怖を夢に見るまでのものにし、当時はまだ米ソ冷戦下でしたから「核戦争で人類は滅ぶかもしれない」と本気で思いました。街で硝子張りの建物を見ただけで核爆発時の惨状を想像し、怖くなったものです。

 しかし、中沢氏の被爆体験は私たちのこの恐怖以上のものだったのであり、過剰描写などの指摘はあるものの子供の頃の印象的体験として描かれた『はだしのゲン』が優れた漫画作品であることに違いはありません。敢えて申しますと、所詮は漫画であり映画なのです。

 『はだしのゲン』にとって最大の問題は、国家転覆を目的とした革命のための道具を探し回ってきた極左の破壊活動団体がこの作品を舐め倒し、思いっきり悪用したことに他なりません。そして、中沢氏も幼少の頃の無知につけ込まれて利用されたと思います。祭祀を司られる皇室を「天皇制」と異称し、これに大東亜戦争すべての責任を被せるという持論も、私には後付けだったように思えてならないのです。

 所詮は……されど漫画であり映画であり、世界各国の政府がそうしたようにこれら表現は戦意高揚の道具に利用されました。わが国にもあったこの過去を批判しながら破壊活動家たちは、『はだしのゲン』を「反皇室・反国家」の国民的意思高揚を目標に掲げて悪用し続けたのです。

 私には、作品に登場するゲンの父親が、大地に麦を育て、子が強く育つよう祈りながら、拷問されても国家崩壊を阻むべく戦争に反対した愛国者に見えます。そして「敗れた」とされたわが国の民として反骨精神を露わにした作風は、ゲンの成長とともに極めて非主流の躍動的なものへと変わっていきました。そこが極左につけ込まれやすかったのでしょう。

 私たちの多くは中沢氏を笑えるでしょうか。批判できるでしょうか。己の無知につけ込まれてまんまと利敵の主張を展開していることはないでしょうか。この顛末に右も左もありません。かえすがえすも私は中沢氏のご冥福をお祈りせずにはいられないのです。本当にお疲れ様でした、ありがとうございました、と。

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『『はだしのゲン』…逝く』に1件のコメント

  1. LINEAGE:

    おひさしぶりです
    これほど見事な考察はないでしょう。これでは極左もぐうの音も出ません。遠藤さんの表現をかりると、彼らは伝統保守を「ネット右翼」と異称し、はだしのゲンや作者の中沢氏を「バーカバーカ」となじって戦争万歳してるだけだと思いこんでいます。だからこういう考察は想定外で都合が悪いでしょう。伝統保守ならみなさんこれくらいのことは書いてほしいものですが、今のところほんとに遠藤さんだけですね。
    ありがとうございました