日本民族を演じ続けた役者
俳優の小林桂樹さんが16日午後4時25分、東京都港区の病院で心不全のため亡くなられていたことが分かりました。86歳でした。心よりご冥福をお祈り申し上げます。
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▲産經新聞:小林桂樹さん死去 映画「社長」シリーズ、テレビでも渋い演技
トロンボーン奏者であり喜劇俳優でもあった谷啓さんも11日に亡くなられたばかりですが、実は伊丹十三監督作品の常連だった俳優の矢野宣さんも17日午前10時10分、東京都文京区の病院で食道癌のため亡くなられました。82歳でした。本当に心からご冥福をお祈り申し上げます。
http://sankei.jp.msn.com/entertainments/entertainers/100918/tnr1009181553009-n1.htm
▲産經新聞:矢野宣氏死去 伊丹十三監督映画の常連
矢野さんといえば、配役にうるさい伊丹監督に重宝された役者さんですが、特に大きな役を演じられたのは『スーパーの女』で、津川雅彦さん扮する五郎が経営しているダメスーパー「正直屋」の店長役でした。これがとんでもない奴という役で、精肉部と鮮魚部の職人たちを引き連れて商売敵の悪徳スーパー「安売り大魔王」(社長役は伊東四朗さん)に寝返る工作を仕掛けるのです。しかも、彼は精肉部の食肉偽装を知っていました。
このようないわゆる悪役から、例えば『ミンボーの女』での地方裁判所執行官役のように、一目で頼れる人物と観客に分からせてしまう役までを幅広く演じられた矢野さんですが、先に触れた小林桂樹さんも『マルサの女』で東京国税局査察部の管理課長を演じています。
脱税摘発の対象が政界にも及ぶほどの強烈なカルト教団や暴力団ということになる『マルサの女2』では、同じ役を丹波哲郎さんが演じたことと対比しても分かるように、小林さんはあくまで日本の庶民像を体現した役者さんでした。社長秘書を演じられても、上役を演じられても。
私が小林さんの印象を強く残しているのは、森谷司郎監督による昭和48年製作の『日本沈没』(東宝)で演じられた田所博士役です。これは小林さんがTBS製作のドラマ版でも同じ役を演じられたのみならず、地球物理学者から考古学者への設定変更があるとはいえ、役名も役の持つ(俗に言う偏屈な)性格も同じ田所博士を『男はつらいよ 葛飾立志篇』(松竹)でも演じられました。
『日本沈没』の田所博士は、日本列島の大異変を最初に発見した人物であり、彼は或る種自己破滅的なまでに国民への警告を試み、山本首相(丹波哲郎)を動かして1億の民族を日本から退避させる計画を進めさせますが、日本最期の時、田所は首相にこう言うのです。「わしは日本が好きだった」「総理、日本人を頼みましたぞ!」と。そして彼は沈みゆく日本との心中を選択するのです。
私たちに非常に近いところにおられるような印象を与える小林さんが、このような役を演じられたことに大きな意味があり、他にも『日本のいちばん長い日』(岡本喜八監督)で玉音放送を護り抜いた徳川義寛侍従役や、『連合艦隊』(松林宗恵監督)での山本五十六司令長官役、或いは昭和59年製作版『ゴジラ』(橋本幸治監督)での三田村首相役と、皆すべてが非常に真面目な人物であり、社会的地位を問わず日本民族のいわゆる庶民像を下敷きにせねばありえない、小林さんにしか出せない妙味がありました。
ですから、松竹の小津安二郎監督が東宝に招聘されて製作した『小早川家の秋』での入り婿役も、はたまた黒澤明監督の『椿三十郎』に於ける滑稽なまでに愚直な見張り侍役も、皆まさに「小林桂樹」であり「いかにも日本民族」だったのです。私は小さい頃から、日本の俳優では小林さんがとても好きでした。
ところで、この「いかにも日本民族」というのが一体何なのか、伊丹監督も思い入れを込めて取り上げ続けられた主題でしたが、これについては別の機会に論じるとしましょう。
皇紀2670年(平成22年)9月19日 2:29 AM
こちらで、今、知ってびっくりしました。子供の頃から、馴染んで?来た俳優さんで、家族のような気持ちがありました。小林さん、それと、随分前に亡くなられた藤原鎌足さん、このお二人は、昔の日本の町内にいるような「おじさん」だったと思います。ご冥福を祈ります!