日銀総裁発言の何がダメか

皇紀2682年(令和4年)6月8日

日銀総裁「家計が値上げを受け入れている」

日本銀行の黒田東彦総裁は6日、東京都内で講演し、商品やサービスの値上げが相次いでいることに関連し、「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」との見解を示し…

(産經新聞社)

 私は本年に入り、実は日本銀行に対して嫌な予感がしていました。第二次安倍政権発足後の平成二十五年、日銀法(物価の安定を図るとする金融政策の理念)に基づき、消費者物価の前年比上昇率二%を目標に定めた黒田東彦総裁でしたが、文字通り「平成の約三十年間まるまる」と申してよい深刻な給与・物価下落(デフレーション)を払拭できずに第三次安倍政権も終わりました。

 よもや目下の物価上昇を「問題なし」とするのではあるまいな、と。いや、それどころか積極的受け入れの類いを述べるのではないかと予感していたのです。

 ところが、黒田総裁は六日、共同通信社のきさらぎ会講演で「日本の家計が受け入れている」と発言したので驚かされました。受け入れたのはこちら(私たち国民)か、と。

 この発言だけを取り上げれば、完全にアウトです。が、講演の発言全文をこちら(日本銀行ホームページより)で読んでみますと、この発言の根拠は、東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授が五か国で定期調査している「値上げに関するアンケート」でした。

 そして、黒田総裁自身が「これ(物価上昇)を来年度以降のベースアップを含めた賃金の本格上昇にいかに繋げていけるかが、当面のポイントである」と述べているのです。

 では日銀は、現状私たち国民の経済状況が給与下落のまま物価上昇(スタグフレーション)を起こしていると認めたのでしょうか。認めたならその文言が入るはずですが、どこにも見当たりません。

 軽率に他者が実施したアンケート調査の程度を取り上げながら、スタグフレーションに言及することだけは慎重だった(忌避した)のです。

 物価上昇の原因について、黒田総裁はほどほどに論じていますが、武漢ウイルス(新型コロナウイルス)禍という「狂気」に踊った世界各国の状況を分析しきれているとは思えない内容(認識)で、露国に侵攻を煽ったウクライナが招いた問題は、挨拶程度にしか触れられていません。

 この狂気をバラ撒き、最後まで(「ゼロコロナ」などといいだして)狂い続けたのが中共であり、その影響をわが国が受けているという認識がなければ、日銀総裁として、金融政策の安定を目指して講演する内容としては不十分でしょう。私たち国民に何がいいたかったのですか?

 その上で、私たち国民がスタグフレーションを受け入れているようにいわれては、やはり全文を読んでもアウトなのです。

 中共依存の供給網(サプライチェーン)をやめない限りウクライナ侵攻もあって、現象としての物価上昇が企業や事業主の利益に繋がらない……よって給与上昇は期待できず、このままでは金融政策が安定しない旨を述べ、目下の物価上昇を拒否しなければなりませんでした。

 日銀総裁としては思い切った発言になりますが、経済学上最悪の状態に突入しているわが国で、それをいわずして何をいうのですか、と。

 富裕層の強制貯蓄高だけを論じ、投資を促す岸田文雄首相の「新しい資本主義」は、まさに「古臭い博打経済」にすぎません。首相も日銀総裁も、誰も建設的議論を喚起できないでいるのです。

 大型間接税(消費税)の導入は、私たち国民の致命的分断を招きました。少数の圧倒的富裕層と大多数の貧困層を生みだし、自分たちで経済政策を難しくしたのです。どちらの層に狙いを定めるか、明確にしなければならないよう自ら仕向けました。

 大多数の国民を救わずして国力の低下を防ぐことはできません。定めるべき狙いはもう決まっているのに、政府与党は何もしないままここまで来てしまったのです。

 日銀総裁なら、そのような岸田現政権に厳しい注文をつけるべきでした。それすらもないことが問題発言の正体だったのです。

 報道権力も、ただの莫迦騒ぎならやめてください。黒田発言の何が問題で、現行金融政策(量的金融緩和とマイナス金利政策の継続)と財務省主導の財政政策の関係の是非を分かりやすく皆に説明してみろといいたい。

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『日銀総裁発言の何がダメか』に3件のコメント

  1. アンチレッド:

    奇しくもこのブログの広告欄に「工場が倒産 在庫一掃セール」という広告が表示されました。

    黒田日銀総裁が言う「強制貯蓄」とは「消費されるはずだったお金が、武漢ウイルス対策の行動制限で消費されなかったお金」であり、余裕資金としての貯蓄ではないお金ですから、「消費が先送りされて金が溜まっていた」のであって、単にお金が時間差で消費されているだけでしょう。
    つまり、消費されなかった間に価格が上がってしまい、仕方なく「溜まっていたお金」で物価上昇に対応しているだけの話です。

    余裕資金の貯蓄が消費に回れば企業収益も上がるでしょうが、「消費の先送りで溜まっていたお金」では継続的な物価上昇に対応できるはずもない。
    「貯蓄資金」と「消費資金」の問題は経済の重要な課題だと思いますが、「貯蓄資金」と「溜まっていた消費資金」の区別もできない無能な日銀総裁こそ「30年間の無能一掃セール」されるべきでしょう。

  2. 八百万の神の自由:

     黒田発言は兎も角、金融緩和継続は一安心です(マスコミが引き締めを煽ってるので)。
     後は、政治の財政拡大、内需回帰策が必要ですが、結局、骨太の方針でPB(プライマリー・バランス)の凍結さえできない情け無さ。

     ただ一昨日の三橋ブログで経団連報告書を扱っていて、
    経団連は、財政破綻論の否定から内需拡大、中間層以下の底上げ政策まで、見事な積極財政派の理論を理解したものとなっていたので、久々の朗報。
     悠長な事は言ってられぬが、今後、マスコミ、学者?等の発信の変容は興味深いですね。

  3. 名無し:

    渡辺努教授のアンケート調査など、ハナから、スル−だろうし、そもそもその存在すらマスコミの方達は、御存じ無いだろうし、兎も角新聞紙面・テレビニュースは「日本は、て−へんだ!て−へんだ!」と叫ぶのみですね?まともな分析など、するつもりも無いだろうし、出来ないでしょう?ある意味視聴者を、見くびっているのでしょうが、今ネットが出現して、マスコミの欺瞞性がどんどん晒される世の中になって来ました。思えば良き時代の到来です!