明治から昭和のモダニズム

皇紀2674年(平成26年)4月27日


『細雪』 谷崎潤一郎原作 市川崑監督作品


『帝都物語』 荒俣宏原作 実相寺昭雄監督作品

 英国から始まった産業革命は、或る意味で時代の必然でしたが、現代の新自由主義経済を見る限り、不幸の始まりだったともいえます。わが国が世界をリードした絹産業の発展は、明治五年に官営で設立された富岡製糸場に始まり、ついに今月二十六日には世界文化遺産への登録を勧告されました。

 とりあえずこれを素直に喜んでみるとして、安倍政権が進める「女性の社会進出政策」などチャンチャラ可笑しいほど、製糸場を支えたのは旧士族や農民出身の女工(当時は工女)でした。

 大東亜戦争以前のわが国について、「女性は家庭に押し込められていた」とか「国民に自由がなかった」といった話は大嘘で、戦時に入ると婦人会が率先して「贅沢は敵だ」「パーマネントはやめませう」などと発言して回ったのだから凄いものです。

 映画における描写の例としては、山田洋次監督の『おとうと』で、貴金属などの贅沢品を身に纏わないよう呼びかける婦人会の街頭活動が、表題になった風来坊の弟(笑福亭鶴瓶)を取り囲む場面があります。彼は「身につけとっても、かめへんやないか」と怒鳴って女性たちに叱られるのですが、昭和十六年から二十年までのたった四年間で、確かに国民がこう叫ぶことも許されなくなっていくのです。

 多くの国民が興じた昭和モダニズムの終焉を思わせる、そのはかない美しさを描いた傑作が、谷崎潤一郎の『細雪』でした。これは舞台が関西でしたから、特に阪神間モダニズムの描写が見事で、三度も映画化されました。

 轟夕起子や高峰秀子らが出演した新東宝の阿部豊監督作品、轟に加えて京マチ子や山本富士子の競演が見られる大映の島耕二監督作品、そして岸惠子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子が蒔岡四姉妹を演じた東宝の市川崑監督作品がそうです。市川監督について申せば、宮川一夫撮影監督の銀残しが光る『おとうと』もさることながら、彼の作品群では『犬神家の一族』に並ぶ最高傑作でしょう。

 この「女の恐ろしいほどのしたたかさ」に注目した市川監督の演出は、のちの『映画女優』の田中絹代(吉永小百合)と『竹取物語』のかぐや姫(沢口靖子)へと繋がります。

 そしてもう一つ、全く異質な作品ながら紹介したいのは、荒俣宏の怪奇小説が原作の映画『帝都物語』です。これはもう小説を読んでおかないと何が起きているのかも分からない内容ですが、実相寺昭雄監督の幻想的な演出がファンにはたまらず、モダン・ダンスの先駆者として有名だった石井漠の息子である石井眞木が音楽を担当し、ことのほか昭和二年の銀座四丁目をほぼ再現したオープンセットを舞台に描かれる当時の自由で享楽的な国民生活は、一見の価値があります。

 谷崎の『細雪』でもウィンナ・シュニッツレル(シュニッツェル)やクラブハウスサンドイッチを食すというモダンな生活描写がありますが、『帝都物語』にはビリヤードを楽しむ物理学者と東京地下鉄道の創始者が現れ、皆でビヤホールに行くのです。

 これらは全くの創作ではなく、史実に基づいた創作であり、荒俣の『帝都物語』は空想小説にせよ、印象的なのは目下話題の理研創設者でもある渋沢栄一(勝新太郎)と作家の幸田露伴(高橋幸治)が銀座の町を見下ろしながら、幸田が「日本はこれから、どこへ行くんでしょうか」とつぶやく場面でした。

 「ゴールデンウィーク」は、映画興行界が名づけた大型連休です。私はここ数年、まるでカレンダー通りに休めないので、公開中の映画を観に行けないのですが、皆さんには今すぐにでも観られる作品をいくつかお勧めしたいと思います。

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