今こそアール・ヌーヴォー

皇紀2672年(平成24年)8月5日

【コラム】

アール・ヌーヴォーってのは、
 革命に対する反抗的芸術運動だった、と。

 英国で「産業革命」が起きたのはわが国の宝暦から明和にかけてのころ、つまり西暦で言えば千七百六十年代でありますが、七年戦争の終結によって仏国が英国に工業化の優位を持っていかれたのがきっかけですね。資源をとるための植民地とか。

 それでまぁ英国はドドーンといくわけですが、わが国でも明治維新があって産業の工業化が進んで、大正三年に第一次世界大戦が起こります。それを境にちょっと待てよ、と。ハタと気づけば自分たちの身の周りには画一化された何の変哲もない大量生産品が並んでたわけよ。

 革命がもたらしたのは装飾を否定した安物ばかりで、そりゃ「モダンデザイン」なんぞともて囃されもしたでしょうが、これに反抗したのが「アール・ヌーヴォー」だったのです。その起こりもやっぱり英国だった。

 私がアール・ヌーヴォーと聞いて真っ先に思い出すのはハプスブルグ帝国時代のグスタフ・クリムトなんだけど、本当は英国の「アーツ・アンド・クラフツ運動」が先駆けなんですね。彼らは英国人らしく何事にも厳正でうるさいのですが、仏国では工業化の象徴となった鉄なんかも表現素材として平気で使っている。

 で、今日は何が言いたいのかって。まぁ要は今こそ「第二次アール・ヌーヴォー」を起こす時じゃないのか、と。それほど今は新自由主義経済が蔓延して、企業も当然のように安い労働力を求めて新興国を食い荒らしてきたんだけど、ふと見回せばつまらぬ品々と出鱈目な金融派生商品しか残っていなかった。実体もないのにユーロの信用に支えられた希国の正体に今ごろ騒いでみてももう遅い。

 こんなことで人類は本当にいいのかね。クリムトがウィーン分離派になるきっかけは、或る大学の講堂天井画を依頼されて理性の優位性を否定した作品に仕上げたからなのだが、アール・ヌーヴォーってのは皆様もご存知の通り、自然に着想を得たフォルムの真正性によって成り立っている。

 植物のもつ曲線などを生かしたこの流れはのちに「アール・デコ」へと受け継がれていきましたが、私が最も気になるのは「振り返れば悪趣味な装飾の流行に過ぎなかったか否か」といったことではなくてね、なぜ欧州の人々が自然の洗練されたフォルムに回帰したのかということなんですよ。それこそが重要である、と。

 人間は或る合理的な発見をすると革命を起こしてきた。ところがこの「革命」ってやつは大抵俗悪で役に立たない。仏革命もいわばブルボン朝に対する衆愚の嫉妬が原因で、個人の自由とかナントカはそれを正当化するための道具でしかなかった。ジャン=ジャック・ルソーの社会契約説もそう。

 一見よさそうなんだけど飛びついてしばらくすると酷い代物であると分かる。それで帰るところはやっぱり自然の法則なわけで、個人の理性を絶対視する社会の間違いに気づくわけです。英国のアーツ・アンド・クラフツの考え方もそこにあった。

 只今ファスト・ファッションの大流行ですが、こんなものは長続きしませんね。もしパリの百貨店に行って安物の大量生産品が置かれていたら、あなたはどう思いますかって話ですよ。日本の百貨店が駄目になり始めたのは、ニーズを捉えることはおろかニーズを作り出す能力を失って店舗面積をテナントで埋めだしたからです。

 機械が作る回転寿司で人間が満足するってのは実はとても恐ろしいことなんだけど、もうほとんど誰も気にならなくなっちゃった。アール・ヌーヴォーにも影響を与えた「ジャポニスム」を日本人自身が忘れてしまったとすれば、それは間違いなく天皇陛下の自然祭祀を忘れたためだろうと容易に想像がつきます。

 私たちはもう一度、自然に畏怖の念を抱いてきた自分たちの国柄を見つめなおす時なのです。それは決して偏狭な国粋主義への誘いではなくて、人間の周りをよく見ることでしか疲弊しきった社会の再生はありえないからですよ。

 文=遠藤健太郎 (真正保守政策研究所代表 大阪芸術大学元副手)

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『今こそアール・ヌーヴォー』に3件のコメント

  1. allco:

    「安物買いの銭失い」を証明中の日本国民。
    物品だけでなく、緊縮財政も改革言葉も食文化も道徳も労働力含め、
    脳みそと心も失う訳です。
    日本国体が滅んだのです。

    明治時代の偉大さはその業績に明らかであるが、その基本精神は数千年にわたって作られてきた国体精神である。それは天皇崇拝に限らず、生存のための連続性と連帯性のすべてのシステムである。今国体喪失の時代、明治の精神に還るには、国体の認識をするが第一だ。それは何も特別ではない。両親、祖父の時代の普通の空気なのだ。

    国体には見えるものと見えないものがある。見えるものは戦後天皇陛下を除き敵に滅ぼされたが、今なお見えない国体が残っている。これは壊せなかった。それが大震災の「国民の行動」だ。

  2. maayonghapon:

    今日の内容は素晴らしいですね。

  3. komainu:

    これ金払って読む文章ですよ

    文春とか新潮もこのくらいのコラムのせといてほしい